グルーヴの正体・その1
ぼくが音楽を「ちゃんと」聴き始めたのはけっこう遅く、高校を出るか出ないかくらいの時だった。
その頃、つまり本当にド初心者の頃に困ったことのひとつは、グルーヴという概念が理解できないことだった。
直訳するとノリのいいことをグルーヴィーというらしいのだが、どうもぼくの思うノリと、本当にわかっている人のそれとは大きな乖離があるように思えた。
ぼくがノリがいいと感じる音楽を聴かせても、彼らは一様に困ったような顔をするだけだったのである。
あ、これじゃないんだな、こういうことじゃないんだな、ということだけはわかった。
たとえば、当時ぼくが思うノリとは、大部分がスピード感のことだった。
ぼくはまだ若く、しみったれたスローバラードなんて何時間も続けて聴いてられなかった。
ところが、音楽に慧眼の先輩方曰く、ゆったりした曲にはそれはそれで独自のグルーヴがあるというのである。
ぼくはここでしばらく混乱した。
いったいグルーヴとはなんなんだろうか?
グルーヴという単語に絡めて当時(今も?)、もっとも語られるバンドの筆頭は、言わずと知れたローリングストーンズであった。
それならば覚悟を決めてガッツリ聴いてやろうと、(今思えば違法だったであろう)テキ屋が路上売りしていた再編集ベスト盤のカセットテープ*1をジャスト千円で買い、ヘッドホンステレオで繰り返し何度もストーンズを聴いた。
もちろん最初は何がいいのかさっぱりわからない。
かといってビートルズほど耳馴染みのある曲が揃ってるわけでもない。
はっきりいって当初は苦痛ですらあった。
それでもせめて出した金の元くらいとってやろうと、とりあえず有名曲を覚えてやるみたいなモチベーションで、テープを幾度も聴き流す日々がかろうじて続いた。
今みたいにスマホやYouTubeみたいに他に移り気させるテクノロジーがほぼ皆無だったことも、結果的に幸いしたんだと思う。
そして、ある日突然それはきた。
一番近い体験は、数学の問題が解けるときのあの感覚かもしれない。
テスト用紙の前で数分ウンウン唸って諦めかけた頃、ふと思い出した公式がバッチリ当てはまって一瞬にしてすべてを理解するあの感じにすごく似ていた。
「ああ、なるほどこれか。このことか!」
その瞬間ぼくは、ずっと全体像がつかめずにいたグルーヴというものの正体がハッキリわかったのだ。
(つづく)(笑)