高倉健さん一周忌とロバート・B・パーカー『初秋』のこと
11月10日は高倉健さんの一周忌らしい。
日本を代表する役者だが、ぼくは健さん世代ではない。
DVDで何本か映画は見てるが、正直言って大ファンというわけでもない。
けど、その名前を聞くと、いつも思い出すことがある。
それは、健さんがロバート・B・パーカーの愛読者で、自らの主演で『初秋』の映像化を熱望していたという話だ。
『初秋」は私立探偵スペンサーが活躍するこのシリーズ、いわゆる「スペンサー・シリーズ」中とくに人気があり、 広義のミステリ全体の中でも名作と言われている*1。
依頼人の息子である15歳の少年・ポールは今でいうネグレクトに近い虐待を受けていた。
見かねた主人公・探偵スペンサーは、いつしか依頼そっちのけに、彼の貧弱な身も心も鍛え直すことになる。
なぜか一緒にログハウスを建て、ついでにランニングと筋トレを教え、人生を語り、最後には共に事件を解決する。
そしてついに、ポールは自分の生きるべき道を見つける。
乱暴にまとめると、まあ、そういうあらすじだ。
(ちなみにシリーズを通して彼はスペンサーの養子のような存在になっていく)
僕は中高生の頃このシリーズにどハマりした。
文庫で出ていた分を一気に読み切ってしまい、そのまましばらく、ハードカバーが出るたび即買いして読み続けていた。
後にも先にもこんなに魅了された海外小説のシリーズはない。
当時、ポールと近い年齢だったのも大きいと思う。
おっと、ぼくの話はいいや。
健さんの話だっけ。
前出の「健さんが『初秋』を映画化したがっている」という話は、インターネットが普及する以前からあちこちで聞いた、というか読んで目にしていた。
でも長年一次ソースが見つけられず、ずっと半ば都市伝説みたいになっていて、たぶん本当の話なんだろうけど真偽不明のまま終わるんだろうなあと、漠然と思っていた。
ところがTwitterの時代になり、こんなツイートを見つけた。
四半世紀前、高倉健主演でシナリオ(だけ)を頼まれた事があります。 RT @Kaizo_Hayashi: ロバート・B・パーカー「初秋」を映画化したいなあ。舞台は日本で。
— 川島透 (@ktooru) 2014, 5月 15
なんと企画に関わったご本人の証言である。現在は映画監督。
だけど結局間に合わず、昨年、健さんは亡くなってしまった。
実現しなかったのは権利関係の問題だとこれまた噂できいている。
ご存命でも年齢的には厳しくなっていたとは思うけど、見たかったな。高倉健主演の『初秋』。
健さんの少し前に、原作者のロバート・B・パーカーも没し、さらにその前には翻訳者であった菊池光さんも訃報が届いている。
御三方のご冥福をお祈りします。